ご質問ありがとうございます。我々も日常診療において、エピルビシンなどのアンスラサイクリン系抗がん剤の投与後の血管痛が生じた患者さんを経験します。
文献検索上は、アンスラサイクリン系抗がん剤の投与後の血管痛の頻度は15-89%と幅がありますが、その多くは軽度の痛みや腕のつっぱり感と報告されています。抗がん剤の投与後の血管痛は、血管の内側の壁の細胞=血管内皮の損傷によって炎症が起こるとされています。血液と投与薬剤とのpHや浸透圧が異なることや投与薬剤と血管内皮との接触時間が関与していると考えられるため、予防策として、溶解液によるpHや浸透圧の調節や、点滴時間の短縮、点滴する腕を交互に変える、投与後に生理食塩水で残留薬剤を洗い流す、点滴中にホットバックなどで血管を加温して拡張させるなどが挙げられます。
しかし、すでに静脈炎を起こされた患者さんへの対応策や、血管痛の消失までの期間についての文献報告はありません。
発赤部分のクーリングやステロイド外用薬を塗る、血管炎の症状が治まるまでは血管を温めるような入浴は避けシャワーにするなどの、一般的な静脈炎と同じ対処しています。静脈炎に対する局所治療についての12件の研究の統合的解析をした2022年の論文では、ヘパリン類似物質やセサミオイルが、静脈炎の程度やその疼痛を有意に減少させると報告しています。
発赤や血管痛の消失までの期間については、個人差があるように思います。アンスラサイクリンレジメンが終わり、別のレジメンを開始する頃には血管痛を訴える患者さんは少ない印象がありますので、3~4週間程度で疼痛は軽減する方が多いと思います。しかし発赤や血管痛は無くなったけど、血管が堅いままが続くや血管を押さえると痛みがあるという症状は、数ヶ月~半年程度続く患者もおられます。